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加湿器
先日加湿器を買った。
正確に言うと、居間と私の部屋の2部屋に置くために、親が買った。
買ってもらってから言うのも何だが、冬に空気が乾燥するのは自然の摂理であり、
人間は昔からその環境に耐えてきたのだ。
常にドライでクールな人を目指している私としては、加湿器なんて軟弱なものに頼るのは癪だったのだが、まぁでも、その、結局は買ってもらうことにした。
売り場に行くと、いつもは興味がないので見ていなかったのだが、結構な種類が並んでいる。私の嫌いな(※)「マイナスイオン」もぞろぞろ並んでおいてある。
(※科学的な根拠が証明されていないから)
mp3プレーヤーや携帯電話と比較してもかなり機能が限定されている製品であるため、直感的には技術的にも大したことはないような気がするのだが、価格はずうずうしくもmp3プレーヤーや携帯電話と似たような設定だ。
だが売れるからこそ、この値段なのだろう。
そんなに乾燥が嫌なら洗濯物を室内に干すか、
バケツに水でも汲んでその辺に放置しておけば自然と蒸発するだろ、とか、買いに来たくせに思ってみる。
まぁ売り物になっているからには、多少、洗濯物やバケツでは対応できない何かにも対応できる機能があるということだろう。だが我々は、加湿器の隠された弊害から目を逸らしてはいないだろうか。
恒常性の維持=ホメオスタシスという言葉を御存知だろうか。
多少の外界の変動くらい、自分の体内機構だけで対応出来る、という話だった。
自分が環境に適応するのではなく、環境を自分に適応させることが出来るのが人間の素晴らしいところではあるが、限度を越すと、肝心の自分たち自身の機能が退化してしまうような気がする。
このままいけば、いつか、抵抗力を失って、ヨワヨワなウイルスにすら抵抗出来なくなるのではないだろうか。
そう、例えば鳥インフルエンザとか。
「鳥インフルエンザが猛威を奮う!?」
加湿器売り場に限らず、店の壁にはあちこちに記事が貼り付けてあった。
だから、それ=インフルエンザにかからないために加湿器を買いましょう、というワケだ。
私が加湿器メーカーに勤めていたなら、さぞかし鳥インフルエンザのニュースに
喜んだことだろう。
さらに言うならば、私が医学の知識があり、なおかつ今よりワルだったら、自分で鳥インフルエンザ菌を培養して撒かないとも限らない。
まぁ私が良い人だったから良かったようなものの、一歩間違えれば世界は恐怖のウイルスが蔓延して、加湿器が飛ぶように売れたことだろう。(あ、あと医学の知識も必要なんだっけ。)
まぁ実際、そこまでする人がいなくても、新聞記者に鳥インフルエンザの記事を大々的に取り上げてくれ、くらいのことは頼んでいるかもしれない。
さて、話は売り場に戻る。
今まで知らなかったが、加湿器と一言で言ってもいくつかに分類されるらしい。
「加熱式」、「気化式」そして無駄に格好良さ気な名前の「ハイブリッド式」。
簡単に説明すると、以下のようになっている。
加熱式:ストーブの上の薬缶
気化式:水槽用扇風機
ハイブリッド式:上二つの混合式で、イイトコどり。
何故か気化式はあまり置いていなかったので、加熱式とハイブリッド式で比較検討することにした。
まずは価格。何はさておき価格が重要。庶民の基本だ。
値札を見ると、一般的に加熱式のほうが安いようだ。
しかもハイブリッド式の場合は1年に一度、フィルタ(大体2、3千円か)を買い換える必要があるとのことだ。
加熱式の方が断然お得な感じだ。
もっとも加熱式には、噴出し口が熱くなるという欠点があるらしい。だから赤ちゃんのいる家庭などにはオススメ出来ないということだ。しかし我が家では、そのような罠にはまりそうな愚かな人間はいない。・・・クリスマスイヴに、洗面所の半開きの扉に振り返りざま衝突し、額にソラマメ大のコブを作ったのは何を隠そう私だが。
まぁしかし、確かにコブは作ったが、まさか加湿器に躓くことはないだろう。(根拠のない自信)
というわけで、多少ローテクな雰囲気は漂うが、加熱式が安くて良いのではないだろうか、という結論が出かけた、その時。聡明な私の脳が危険信号を発した。
ハイブリッド式には「省エネ月100円」のような文句がついているのに対し、
加熱式には電気代に関する記述が無くはないか?
これは匂う。
というわけで、店員に聞いてみたところー。
加熱式は一ヶ月に数千円かかるというではないか!!
全くこの売り方は詐欺に近いのではないだろうか。
正々堂々と勝負しろと青少年諸君に説教したくなるくらいである。
というわけで一気に「ハイブリッド式も良いかも」的な流れに傾き始めた。
がしかし。
そうなってみるとハイブリッド式の粗探しもしたくなるのが人情だ。
何よりそのスカした名前が気に食わん。
お前がハイブリッド式加湿器ならこっちは肺呼吸と皮膚呼吸のハイブリッド式呼吸法だ!
あ、今少し、虚しい気がした。
で、ハイブリッド式。
繰り返しになるが、これは加熱式と気化式の中間のような方式だ。
「水を加熱するまでは加熱式と同様だが、それを直接噴出するのではなく、熱水を含んだフィルターに外から取り込んだ風を当てて加湿するという仕組み。」だそうである。
待てよ・・。
この仕組みは、真夏に熱帯魚水槽につけたファンと(目的は違えど)同じではないだろうか。
つまり、気化熱を奪うので、室温は下がる、ということになる。
ハイブリッド式は、確かに安全で、低電力かもしれないが、その結果室温が下がってヒーターが数割増でフル稼働ということになれば、なんというか本末転倒というか支離滅裂というか・・・一言で言うと、非常に頭の悪い感じがする。
昔、ストーブだった時には上に薬缶を置いて常にお湯を沸騰させていたものだが、今思えば、あれは本当に効率的であった。(ガス臭いのは嫌だけど。)
機能の分化が進むことで、ひとつひとつの性能は良くなっても、応用が効かなくなり、そればかりか、他に悪影響を与えるというのは、悲しい話である。
そういえばヒーターで思い出したが、先日熱帯魚水槽用に新しく温度調節機能付きヒーターを買ってきて設置したのだが、設定を誤って危うく煮立ってしまうところだった。
幸い大惨事になる前に異常に気付いたのだが、1匹犠牲者が出た。南無阿弥陀仏。
これもまた悲しい話である。
閑話休題。
そんなこんなで、電気代とフィルタ代と本体価格とその他もろもろを考えると、結局決め手に欠けた。
というわけで、我が家の購入品。
居間用にハイブリッド式ひとつ、私の部屋用に加熱式ひとつ。
何とも中途半端な買い物になった。
冒頭で、私は科学を愛する知的現代人だが野性味を失いたくはない、と宣言したが(あれ、してなかったかな)、購入してしまったものを使わないのもアレなので、結局それから時々は加湿器を使っている。
エアコンで暖めて加湿器で湿度をあげた部屋から出て風呂に入れば、そこは何もしなくても熱気と湿度のパラダイス。何故だかそれが悔しい。
あぁ、ドライでクールな私はどこへ行ってしまったのだろう。
頭を洗いながら考える。
せめて洗った髪はドライアーを使わずに自然乾燥することにしよう。
それが私の、せめてもの抵抗だ。
その小さな抵抗が、次の日の朝の素敵な寝癖という現象を引き起こすとは
流石の私も予見できなかったのだが。
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