戻る
グリコ
「グリコ」という遊びを御存知であろうか?
ジャンケンをして、勝った人間が、出し手によって決まっている 数だけ階段を上り(下り)する遊びである。 階段を上りきった(下りきった)順に勝ちである。
グーで勝つと「グリコ」で三段。
チョキだと「チョコレート」で六段。
パーだと「パイナップル」でやはり六段。
いや、しかし、チョコレートの「チョ」は、「チ」と「ヨ」で二つと数えるのか、 それとも「チョ」という一文字だと考えるのか。
また、パイナップルの「ッ」は一文字分として数に入れるのか。
ガキんちょの遊びでは、 そういった大変くだらない事で、真面目に喧嘩になったりもする。
「えー。『チョ』はC・Y・Oなんだから、一文字に決まってんじゃん!」
「小さい『ッ』は無声音なんだから数には入れないよっ!」
嫌な会話である。
それにしてもこの遊び、「チョコレート」と「パイナップル」が一般名詞であるのに 対し、グーが「グリコ」という明らかな固有名詞であるとは一体どういう事だろう。 たかが一会社の名であるにも拘らず、一般名詞にその名を連ねているなぞ、厚かましい。
だが、それではどんな言葉だったら良いのかと考えてみたが、これが意外に思い付かない。
「愚妻」ーなんか子供らしくなくて嫌だ。
「偶然」ーそりゃ副詞だ。
「寓居」ーぐうきょ:〔「かりずまい」の意 〕自分の住まいの謙称。あっそ。
「具現」「虞犯」「ぐびぐび」「供奉」「軍旗」「群居」ーどれもぱっとしない。
「軍艦」あたりならまだ良いかもしれないが。
では、外国語ならどうだろう。
「グラタン」「グレープ」「グロッキー」「グラジオラス」「グロテスク」「グラマー」etc.
結構ある。とは言うものの、やはりグリコ以上に良さげという訳でも無いし。
結局親しみやすさから言えば、グリコが無難な線なのかもしれない。
さて、ここからが本題であるが、この「グリコ」という遊び、ゲーム理論的には なかなか興味深いのである。
もし相手が、グー、チョキ、パーをそれぞれ同じ確率(1/3)で出すのならば、 勝った時の利益(進む歩数)が大きい「チョキ」や「パー」を出すべき である。
また、これに負けた時の相手の利益(=自分の損害)を考慮すると、自分が「パー」、 相手が「チョキ」で自分の負け、というのはリスクが大きい。
従って「チョキ」を出し続けるという戦略が一番良い、という結論になる。
自分
相手
グー
チョキ
パー
グー
0
−3
+6
チョキ
+3
0
−6
パー
−6
+6
0
<グリコ戦略>
自分の利益の期待値を計算すると、
自分がグーの場合は、(1/3)× 0 +(1/3)× 3+(1/3)×(−6)= −1
チョキの場合は同じく、+1
パーの場合は、0
という結果が得られる。
しかし、実際は勿論そうはいかないわけであって、相手が均等に グーチョキパーを出してくれるわけではない。
相手が同じような事を考えていれば、この戦法は考え直さなければいけなくなるし、 そうでなくとも自分がチョキばかり出していれば、相手は当然グーを多めに出すようになるだろう。
また、そういったセオリーを全く 無視して、「ジャンケン」という掛け声がかかると反射的にグーを出してしまう事が多い 困った君もいれば、裏を読む奴もいたり裏のまた裏を読む奴がいたりで、 複雑な計算になってくる。
いづれにしても、この「グリコ」という遊びがただのジャンケンよりも面白いのは、 利益(自分が勝って進む歩数)や損害(自分が負けて相手が進む歩数)の重みが 、グー、チョキ、パーそれぞれはっきりと違う事によるのである。
先日、近所の階段で小学生が数人、グリコをやっていた。
「じゃんけん」
「グー」「チョキ」「グー」「グー」「チョキ」
「パーの人間いる?いないね?」
そして、グーを出して勝ったらしい彼女らは、大きな声でこう言って階段を 登っていったのである。
「グリコのおまけ」
(七文字)
戻る