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健康について

小さいころから、健康なことだけが取り柄である。

・・・本当は、他にも色々と取り柄があるのだが、慎み深いので、ここでは述べない。

さて、健康であるというのがどれほど有難いことなのかは分かっているつもりだし、 実際 もし健康と不健康のどちらかを自分で選択することが可能なら迷わず健康を取るわけではあるが(※ただし保険金は考慮しないものとする)、幼い頃は、テスト前に決まって体調の悪くなる学友を多少うらやましく思ったこともある。
が、健康なものは仕方が無い。
その当時はサボリ引きこもり不登校なんていう選択肢が自分に存在することも知らなかったから、健康であれば学校に行く以外なかった。つまり、いつも健康であったので、いつも学校に行くことになり、その積み重ねの結果、毎年皆勤賞という暗い青春を送ってしまったわけである。
というか、正確にはいつも健康であったわけではなく、多少の病気や怪我はあったのだが、風邪をひいたって登校するのは当たり前で、治るまで風邪菌を撒き散らしていたし、 小学2年生の時にコケて頭を打って血を流した時も、医者に行って麻酔かけて何針か縫ってその後頭にぐるぐると包帯を巻いた状態で元気に登校していた。
そんなだから、体調が悪いという感覚にも馴染みが薄く、風邪をひいて気持ちが悪かったのをお腹が空いたのだと勘違いし、「お腹空きすぎて気持ち悪い何か食べたいお願い何か作って」と親にパスタを作らせて食べた挙句すぐさま逆流させるという誤作動を起こしたことすらある。

ここまでくると、最早アホの領域に達しているような気もしないではない。

そんな、アホか天才か、と言われた幼少時代(言われてません!)を過ぎ、今では、アホか凡人か、と言われる大人(言われてません!)になったが、結局、大病と言うものを経験しないまま、今に至る。
まさに健康優良児。
私という存在そのものが、「健全な肉体には健全な精神が宿る」と言う仮定を見事に立証してみせているわけだ。

そんな私であるから、 二年ほど前、定期健診のレントゲン撮影で肺に異常陰影が見つかり、精密検査にまわされた時は、実は密かにわくわくしたものである。
「私、陰がある人間なんです。」
はは、格好良い。
(尤も、実際に大病だったら笑っていられなかっただろうが・・。)
が、精密検査の結果、陰は無かった−−正確に言うと、「ここになんか陰があるんだよね、ははは。まぁ問題ないでしょう。」と医師が言った−−が、レントゲン写真の中の私は、まるで私ではないようだった。
何と、肉と皮が透けて、骨が見えているのである。
・・というのは勿論この私には予想できた話であるが、問題なのは、その残った「骨」の形状だ。
そう、陰は無かったが、背骨が曲がっていたのである。
横から見て、ではない。
正面から見て、S字型に曲がっているのである。
ありえない。
私が平均より背が低いのは、背骨が曲がっている所為だったのだろうか。
私が平均より足が長いのは、背骨が曲がっている所為だったのだろうか。
私のへそが真ん中からずれているのは、背骨が曲がっている所為だったのだろうか。

思い起こしてみれば、確かにいつも、妙な体勢で人生を過ごしてきた。
前の家では、上半身は机に向けつつ、両足を机の右にあった押入れの上の段に乗せていたし、
今の家では、上半身はPCに向けつつ、両足をPCの左にあるもうひとつの椅子に乗せている。
そりゃ確かに背骨もS字に歪むというものだ。
ちなみに私は横だけでなく後ろにも柔らかく、自慢だが腹ばいになってのけぞると、軽く足が頭・・を越して目の辺りまで届く。
さらに言うと、逆の前屈はマイナス10cmくらい。
単純に軸が平均よりのけぞっているだけという噂も無きにしも非ず。

閑話休題。
私の体には心と同じようにどこにも異常がない、と信じて今まで生きてきた私にとって、この事実は多少なりとも衝撃的だった。
確かに、健全な肉体に健全な精神が宿るとしても、 それは健全な精神が健全な肉体にのみ宿るということにはならない。 だから私の背骨が曲がっていたって不思議ではない。だが理屈と感情は別だ。

これは治らないんですか、と聞いてみたところ、
「整体にでも行かないとねぇ」
あっさりと言われた。

なんで日常生活で歪めることが出来た背骨を、日常生活で逆に歪めて治すことが出来ないのか納得いかない。
いや、きっと出来るはずだ。
と思ったが、前から見てS字なのか後ろからみてS字なのか忘れてしまったので、 下手するとS字カーブがきつくなるだけということになりかねない。自力修正は断念することにした。

とはいうものの、諸々の理由からとりあえず整体にいく気にはなれない。
これはどうしますかねー。まぁまた今度考えよう。
忘れてしまえばそれは無かったのと同じだくらいの勢いで いつものように問題を先延ばしにしていた、そんなある日。
脊椎歪曲症について、たまたまテレビでやっていた。

「背骨の左右のゆがみは、身体の様々な箇所に影響を及ぼし、思わぬ事態を招く事もあるんです。」

なんとも具体性にかける胡散臭い表現だが、まぁ確かに曲がっているよりは真っ直ぐの方が自然なのだろう。
番組では、家庭で出来る矯正法も紹介していた。
その名も「へびのびのび運動」。
四つんばいになって腰を伸ばしたり縮めたり回したりすることで、 一時的に歪曲が改善される、らしい。
一時的にというあたりは聞かなかったことにすると、 これで私のS字背骨も直線になるかもしれない。
というわけで、再度心身ともに健康優良人になることを目指し、 時々思い出してはやってみている。
毎日2回やる、とかいうのはやはり、聞かなかったことにしている。

ところで、このへびのびのび運動、やった次の日は、 いつも若干腰を痛めている気がするのだが・・・ まぁこれもきっといつものように、気のせいなのだろう。
こうやって、鈍さと勘違いが支える私の健康生活は、今日も過ぎていく。

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