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進化した人間


私はよく、道を間違える。
大学受験の当日も、最寄り駅を出た途端に正反対に歩き出してしまった。
隣駅の良く使う通りも、デパートの入り口で知人と別れた途端に駅の方向が 分からなくなった。
池袋で飲んだ帰りも、駅のすぐ前で「池袋駅はどこですか?」とオジサンに聞いてしまった。
初めて入ったデパートなんて、同じ所をぐるぐるまわってしまう。
初めてでないデパートでも、一回角を曲がると分からなくなる。
数年間通った大学も、少し慣れない場所を歩くと、90度程度方向感覚がずれていたりした。

一言で言えば、私は極度の方向音痴であるらしいのだ。
そんな情けない私と比べ、渡り鳥の方向感覚の正確さ!!素晴らしき能力ー本能。
彼奴等は、「13+5」なんていう超簡単な足し算も 出来ない癖して、方位磁針無しで北を目指す事が出来るのある。
また、以前TVで見たのだが、被験者(人間)達に目隠しをして北を指させるという実験があった。 そしてそれは、割と良い確率で北方を指すという驚くべき結果になった。人間にもそんな 本能が残っていたのか!? (尤もこの番組の信憑性は確かではないが。)
が、私には、そんな能力絶対に無い。私は善人であると同時に、方向音痴なのである。
本能が無いのである。

また、本能といえば、鮭は生まれた川に戻るというアレもすごい話である。
一度大海原に出てしまった後、再び同じ川に戻るなんて、すごいホームシック野郎である。
・・・いや、そんな話じゃなかった。
鮭の本能はすごいね、という話だったか。
それぞれの川に特有の匂いでもあるのだろうか?
「ちょっとキツめの甘酸っぱい生活廃水の香り。う〜ん、これだ。」
とにかく鮭はスゴイ。
私なんか、小学生の時分、狭い学校のプールで背泳ぎをしたら、あーら不思議、いつになっても 25m先の陸につかなかった事がある。永久ループにはまってしまっていたのである。 平たく言えば、まっすぐ泳げなくて同じところをぐるぐるまわっていたのである。ーまぁ これもある意味、すごい気もするが。

さて、渡り鳥や鮭以外にも、素晴らしい本能を持っている動物はたくさんいる。
我々人間にはありえない能力の数々。あったら正真正銘教祖様。グル。
が、人間は、渡り鳥や鮭と比べて劣っていのか、と言えばそうではない。無論、比較基準によって 答えも変わってくるだろうが、知能、という点からは、明らかに人間一般の方が優れている。
狭い狭い地球上での話だが、知能の獲得が進化の流れならば、 人間というのは恐らく、進化の最先端に位置する生物なのであろう。
人間は、毒キノコを見分ける能力を持たない。が、その代わり知識の伝達によって毒キノコを それと知る事が出来る。
人間は、赤外線を見る事が出来ない。が、技術の発達により、赤外線を可視光に変えて見る事は 出来る。
つまり、人間は本能と引き換えに、知能を手に入れたのである。

と言う事は、平均的人間よりも方向音痴な(=本能が薄れている) 私は、もしかして人間の中でも特に進化した種なんじゃないだろう か。


そんな妄想。春。

<終>

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