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定期を無くす

ここだけの話だが、私はよく、定期を無くす。

・・・別に、「ここだけ」と限定するほどの話でもない。
さて、気力が失われたところで話を元に戻すが、私はよく、定期を無くすのである。
今まで12年程定期を使い続けているが、その間、何度無くしたか覚えていない。
まあ12年もあれば、『何度愛を無くしたか覚えていない』なんて悲しい人も いるであろうから、それと比べれば大したことはないかもしれないが、それでも やはり、私の豊富な定期喪失経験は、それなりに私の繊細な神経にダメージを 与えてきたのである。

一番酷かったのは、高校生の時分、6ヶ月定期を買って一週間も経たないうちに落としてしまったことであろう。
「なんだ、そのくらいオレもやったことあるぜ。」と言う人もいるかもしれない。
だが話はそれでは終わらない。
仕方なく買い直した6ヶ月定期を、私は再び、1ヶ月もたたないうちに無くしてしまったのである。

そんなそそっかしくも愛らしい自分の性格を、私は自分で良く分かっている。
分かっているので、現在も、6ヶ月定期は買わないようにしている。
金額が高い場合は、3ヶ月定期も買わず、少々高く付くが、1ヶ月定期を購入することにしている。
私は愛らしくもそそっかしいのである。

がしかし、最近私がしっかりしてきたのは、自自共に認めるところである。
結局自分しか認めていないわけだが、しかし、確かにこの1年、私は定期を 落とさなかった。偉すぎ。
そこで、やはり1ヶ月定期は不経済だ、次は3ヶ月定期を買うぞ、と、私は 密かに心に決めたのである。

さて、そんな平穏な毎日が過ぎていく中、私は今日という日を迎えた。
私は生まれて初めて、バスカードという名のカードを購入したのである。
千円の庶民バージョンと、5千円のリッチバージョンがあるらしかったが、 私の財布の中には、リッチバージョンを買えるほどのお金が入っていなかった。
しかし、自分が庶民であるということを公衆の面前で晒してしまうのは 大変腹立たしい。
ここで私は、自分のそそっかしくも愛らしい自分の性格を思い出した。
「私、定期をよく無くすんですよ〜。」
これは、より経済的な5千円バージョンではなく千円バージョンを買う尤もな理由になる。
自分結構、頭良いかも。
そう思いながら、バスカードをしまうために開けた財布の中には




入っているはずの定期が跡形もなく無くなっていた。

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